自販機でペットボトルのスポーツドリンクを買う。さすがにあのまま帰るのは気が引ける。バスケットコートに目を向けると、奈津子は仰向けのままぼーっと空を眺めているようだ。秋の高い空と少し冷たい空気。夏の賑やかさはなりを潜め、少し物寂しさすら感じられる。
 彼女のそばにペットボトルを置いて、少し離れて座る。
「帰ったんじゃ、なかったの?」
 マスクの不織布越しのくぐもった声。感情は読み取れない。
「……あのまま倒れられたら寝起きが悪くなるからな。」
 もっと言い方がなかったものか。奈津子は無言。気まずい時間が流れる。
「……先、帰るわ。せっかく呼んでくれたのに、ろくに相手できなくて悪かったな。それ、いらなかったら飲まなくてもいいから。」
 今日は歯車が噛み合わない。大惨事にならないうちに、戦略的撤退をだな……。
「……ぃ……くせに……。」
「えっ?なんだって??」
 いつの間にか奈津子の顔が目の前に。
「わたしの気持ちなんか、知らないくせにっ!!」
 至近距離で奈津子が叫ぶ。それに合わせて、顔を覆ったマスクがべこべこと収縮する。そのまま押し倒されて、奈津子が自分の上に馬乗りになる。
そして、そのまま無理やり顔を掴まれて、マスク越しに……。
「んっ……ちゅっ……はぁっ……んちゅっ、ちゅっ……はぁっ……。」
 膨らみのあるプリーツマスクに覆われた奈津子の顔。キスをすると、必然的にマスクに顔を埋める形になる。鼻孔には、奈津子のマスクの匂いが押し寄せてくる。ねっとりしていて少し香ばしい官能的な匂い。奈津子の汗、吐息、唾液を吸い込んだマスク。吐息が吐き出されるたびに、マスク越しに熱いたぎりをぶつけられる。その強烈な波に頭がくらくらしてくる。

 そのままどれだけキスをしていたのだろう。顔の拘束がはずれて、唇が離れる。目の前にはマスクをした奈津子のとろけた顔。蛇腹をめいっぱいに広げられたマスク。はぁ、はぁ、といやらしい吐息。唇どうしが触れていた部分は、唾液でヌラヌラと光沢を放っており、湿り気を帯びたマスクは、呼吸に合わせてべこっ、べこっと音を立てながら激しく収縮を繰り返している。
「……っ、おまえ……なにやってんだよ……正気か?」
 まだ思考が追いつかない頭で、かろうじてそんなことを問いかける。
「正気だよ……。昨日の続きだから。わかってたんじゃないの?……ヘタレ。」
 時折、キスの余韻に体を震わせながらも、いたずらな笑みを浮かべる奈津子。心を見透かされて言葉に詰まってしまう。
「あんた、そういう性格だし、わたしから行くことにした。でも、あのまま帰っちゃってたら冷めてたかもしれないけどね。」
 奈津子はそう言いながら、マスク越しの頬をすりすりとこすりつけてくる。不織布の擦れる感覚と、うちにこもった吐息の温度。それは、少し肌寒い秋の朝にじんわりと熱を放つ。
「……やめろよ、やめてくれ……。」
 心とは裏腹の言葉が口をついて出る。
「……素直になりなよ。全部受け入れてあげるから。かずくんのいやらしいところ、わたしに見せて?」
 耳元に顔を寄せて囁かれる。マスクで少しくぐもった甘い響き。マスクに閉じ込められた吐息の熱が耳元にじんじんと伝わる。
「ほら、なにも、かんがえずに、すなおに、ながされちゃいなよ?」
 奈津子の口から発せられる甘い誘惑。彼女も興奮しているのか、マスクが吐息で収縮を繰り返す音が聞こえる。
「んっ、あむっ、っちゅっ、ちゅっ……。」
 奈津子は、耳たぶを口に含むとマスク越しにはむはむと甘噛みする。不織布越しに伝わる生々しい粘膜の感触。思わず声が漏れる。
「んふふっ、みみたふ、きもひぃ?」
 耳たぶを咥えながら問いかけてくる。気持ちいい、気持ちいい。下半身はかつてないくらいに膨れ上がり、今にも爆発しそうだ。
 奈津子はこちらの反応に満足したのか、耳たぶから口を離す。
「……ここじゃ恥ずかしいから、移動しようか。」

「人に見られない、秘密の場所。そこで、いっぱい、きもちいいこと、しよう?」
 それは、甘すぎる誘惑だった。


「先にはいって?」
 奈津子に引かれてやってきたのは、公園の器具庫。確かにボールやら何やらが置いてある。
「ここ、ほとんど誰も使ってないみたいだからさ。」
 後手に扉を閉めると、そんなことを言う。後ろを振り返ると、出口を塞ぐように立っている奈津子。
「……まさかここまで来て逃げないよね?」
 マスクで隠されていない目元に訝しげな表情を浮かべている。
「ほら、奥行って。スコアボードの裏。マット敷いてあるでしょ?そこなら入り口から死角になるから大丈夫だよ……。」
 もう下半身の疼きは止まらない。靴を脱いでマットに上がる。高跳び用のものだろうか。分厚くゴワゴワした表皮の緑色をしたマットは少しホコリ臭い。
 手持ち無沙汰に、マットの感触を確かめるように手で押しこんでいると、奈津子もマットの上にあがってくる。そして、おもむろにジャージのジッパーを下げて脱ぎはじめる。
 なにしてるんだ、という忠告を聞きもせず、こちらの怯えた姿を恥ずかしそうに、嬉しそうに見つめながら、ゆっくりジッパーを下ろしてゆく。
露わになるジャージの下。明らかに丈の足りてないピチピチの体操服。まるでディスカウントショップで買ったコスプレのようなそれは、生地が胸の膨らみにはりついて、下着のラインがくっきりと浮き出ている。同時に、閉じ込められていた熱気がむわっと吐き出される。
「……おかしい?」
 はっきり言ってエロい。思わず、抱きついていいか?と尋ねてしまう。
「……いいよ、おいで?」
マスクをくしゃっとさせて一息吸い込んでそう答えると、恥ずかしそうに両手を広げる奈津子。ゆっくりと近づき、胸に顔を埋める。じっとりと汗の染み込んだ体操服。洗剤に混ざる汗の匂い。少し硬いブラの感触ごしに伝わる柔らかな肉感。たまらない。
「ふふっ、赤ちゃんみたいだね。」
 そう言って、髪の毛を優しく撫でる奈津子。穏やかな呼吸に合わせて、マスクがゆっくりと収縮を繰り返す。
なんか気恥ずかしくて、ぐりぐりと顔を押し付ける。
「もうっ、やぁっ、……そんなにぐりぐり……しちゃって……悪い子……。」
 少し身悶える奈津子。マスクが呼吸でくしゃくしゃと収縮する。ひとしきり堪能して顔を離すと、奈津子がお願いしてくる。
「ねぇ……後ろからも揉んで?」
 奈津子に後ろから抱きつく形になる。背中にブラのラインが浮き出ていてとてもエロい。
「……えっち。」
 そんなことを言うと、奈津子が恨めしそうな顔をしてこっちを見る。
 奈津子の胸に触れる。硬いブラのカップの感触。それをさわさわと撫でまわす。
「んんっ……それ、なんかやらしい……。」
 薄い体操着に張り付くように浮き上がる胸の形と、くっきりと浮き出たブラのライン。その感触が気持ちよくて、揉まずにひだすら膨らみを撫で続ける。
「わたし、かずくんに胸触られちゃってるんだね……なんか恥ずかしくなってきちゃった……。」
 息をするたびマスクが動くものだから、呼吸が荒くなってきているのがわかる。奈津子は、次の刺激に備えて時折目をぎゅっと閉じたりしている。しかし、さわさわと服越しに胸を撫でられ続けるだけ。そろそろ揉んで欲しいなんで思いながら、逝ききれないもどかしい刺激に体を震わせている。
「んっ……ねぇ、それ、楽しい?」
 いい加減、耐えきれなくなった奈津子がこっちを見つめて言う。紅潮した顔に、濡れて光沢を放つ肌。心なしか目も潤んでいる。
「……揉んでくれないの?」
 苦悶の表情を浮かべてこっちを見つめる奈津子。マスクが荒くなった吐息で、もごもごと動く。一度離れた手が再び胸の膨らみに近づく。ごくりと喉が鳴る。奈津子の吐息が荒くなる。肩が激しく上下する。目が見開いて、吐息に喘ぎ声が混ざりはじめる。
「ああっ!」
 奈津子の胸を軽く持ち上げた瞬間、奈津子の体からがくんと力が抜けて、もたれかかるように倒れ込んでくる。
「もうっ!!いきなりっ……はげっ……激しぃって!!」
 はぁ、はぁ、とひどく吐息を乱す奈津子。目が少し逝きかけている。
「……ねぇ、ブラ、とってくれない?」
 奈津子はそう言って、向かい合うように首に手を回す。奈津子の顔が耳元にきて、ちょうど抱き合う形になる。耳元に奈津子のマスク越しのくぐもった吐息。柔らかな胸が体に押し付けられる。
「脱がなくても見えるでしょ?引っ掛けてあるところを外すの。」
 まさか自分がブラ外しをお願いされるときが来るとは思わなかった。そして、否が応でも意識させられる奈津子の透けブラ。
「少し引っ張ってはずすの。ほら、はやく。」
 ここからでは顔が見えない奈津子。マスク越しの吐息とくぐもった声だけが聞こえる。思い切って軽く引っ張ると、ブラはあっけなくはずれてしまった。
「んっ……。」
 瞬間、奈津子は体を震わせ、声を漏らす。
「よくできました。んっ……。」
 抱きしめる力が強くなったと思ったら、着けているマスクで耳をすっぽり包まれ、そう囁かれる。そして、ダメ押しとばかりにマスク越しに耳たぶを愛撫される。
 奈津子は、一度体を離すと背を向けてブラを抜く。そして、こちらに向き直ると、手で胸元を隠していたずらな笑みを浮かべる。ノーブラであんなピチピチの体操服を着たら……想像するだけでやばい、逝ってしまいそうだ。そんな反応に満足したのか、
「……どう?」
 ブラに閉じ込められていた胸がぷるんと揺れる。ぴちぴちに貼り付いた体操服には、案の定、乳首がぷっくりと浮いている。よく見たら、奈津子の顔もかつてないほど真っ赤だ。恥ずかしいのか興奮しているのか、愛撫されているわけでもないのに、ふーっ、ふーっと荒い呼吸でマスクをぺこぺこさせている。そして、そのままこちらに近寄ってきて、また耳元でささやかれる。

「……そろそろ、準備しよっか。」