夏までに痩せたい!!という彼女の要望に答えて、早朝にランニングをはじめた。
本当は、腹の肉が少々たるんでいるくらいにだらしのない体が好きなのだが、今回は別の思惑があるので、はなく、彼女の情熱に心動かされて、協力を惜しまないことにした。
とは言っても、自分は十分に痩せてるし、疲れるのは嫌なので、自転車で並走して檄を飛ばす役割だ。
ほっ、ほら、途中でふたりともくたばってしまったら介抱する人がいないでしょ?
俺は彼女の安全の為を思って、こうして心を鬼にしているわけだ。

ちなみに、肺活量をつけることと、排気ガスや走っている途中に変なものが口にはいらないように、マスクの着用も義務付けている。
これもただ、自分が隠れマスクフェチで、それを彼女に正直に言えないがためにとった苦肉の策ではないということも加えて断っておく。
「えっ?マスクして走るの!?
なんか変質者みたいで恥ずかしいよぉ。」
「おっ、おまえの痩せたい希望のために、俺が一所懸命考えてやったのに、おおおまえの決意はその程度なのかああああああ!!!」
「でっ、でも、だったらゆうくんも一緒に走ってくれればいいじゃん!!ゆうくん、本当は自分が走りたくないだけでしょ!?!?」
「おおおっ、俺はだなぁ!おまえのことが心配で色々言ってやっているのに、おまえときたらあああああ!!!!
別におれは痩せなくていいんだから、やりたきゃひとりでやったっていいんだぞ!?!?」

こんなやりとりがあった気がするが、それでも首をかしげる彼女を強引にやりこめての今日があるわけだ。
こう読んでいると、この、俺という人物が、本当に畜生に思えてくるのだから不思議だ。
マスクへの執着がなかったら、きっと、一緒に走ってあげていたのだと思いたい。

5月も終わりに近づいて、少しずつ汗ばむ日が増えてきた。
今日の彼女の格好は、Tシャツにスパッツと、陽気に合わせて薄着をしている。
決して自分は、走っているうちに汗ばんで、Tシャツに透けるスポブラやお尻の形を魅惑的に強調しているスパッツに、目を奪われているわけではない。

「ハァ、ハァ、ハァ、ねぇ、あと何キロ~?」
彼女は、へばりそうになりつつ尋ねる。
「河川敷のところが半分きたくらいで、あとは公園1週だから3キロくらいじゃない?」
自転車を漕ぎつつ、彼女をガン見する、いや、彼女に檄を飛ばす立場の自分は気楽だ。
「3きろぉ~!?まだそんなにあるのぉ!?!?」
当事者の彼女にとってはたまったものではない。
それでも心を鬼にせねば、自分への甘えから、ダイエットが失敗に終わってしまう。
「大丈夫だ!頑張ればできる!!」
「なにそれぇ……。」
心底うんざりそうに彼女が言うが、自分の座右の銘は、できないことはできない!だ。

そういうくだらないやりとりをしつつ、自然公園の入り口にたどり着く。
あとは、この遊歩道沿いに一周して、自動販売機のある入り口に戻ってきて終わりだ。
畜生の俺でも、さすがに遊歩道で自転車は乗らず、駐輪場に置いて彼女と一緒に走る。
「先に行ってるね~!」
木々に囲まれた自然公園の涼しさがそうさせたのだろうか、さっきまでのへばりっぷりを感じさせず、彼女は走りはじめる。
駐輪場に自転車を置いたら、彼女を追いかけねば。
そこまでハイペースに走っているわけではないから、少し速く走れば追いつけるし、なにより彼女自身も自分を待って、ペースを緩めてくれているだろう。
ここまでくればクールダウンのようなものだし、自分も、彼女と一緒に森のなかを走ることが嫌いではない。
不精ながら、こういうところで、かろうじて彼女に捨てられずにいるのかもしれない。

ここまで特に触れずにいたが、無論、今日も彼女はマスクをつけている。
超立体マスクの小さめだ。
何故、普通サイズや大きめサイズではいけないのか明確な理由がある。
大きいものは、口周りのスペースが大きいぶん、呼吸が苦しくないのだ。
小さめのマスクは、空気をとどめておくスペースが少ないから、頻繁に空気を交換しないといけない。
苦しくなった時に、荒い呼吸を繰り返せば、マスクが呼吸に合わせて激しく動く。
マスクが呼吸でくしゃっとなるのが好きな自分にはたまらないのだ。
マスクの小ささから、ときどき鼻の頭が顔を出すこともあるし、なにより、サイズに合わないピチピチの小さなマスクをしているという間抜けさが、また興奮を掻き立てる。
マスクのヒモが食い込んで、頬肉が乗っている様も、だらしない体好きな俺からしたらポイントが高い。
フェチの性からか余計な語りを入れてしまったが、彼女を追いかけるべく走り始める。

「もう、遅いよ~。」
彼女に追い付くと、少々の呆れ顔混じりにそう言われる。
夏日を思わせる暑さに、彼女の顔には玉の汗が浮かんでおり、マスクも湿っているせいか、少々息苦しそうに感じる。
「あと少しだけど、頑張ろうね!!」
マスクがずれて、鼻があらわになる。
口だけが隠れると、鼻の穴が強調されて、妙にいやらしさを感じてしまう。
鼻フェチになる日も近いだろうな。
そんなことを思いながらじっと彼女を見つめていると、
「なに?こっちをじっと見て。顔になにかついてる?」
「なっ、なんでもねーよ、前見て走らないと危ないぞ?」
「ふふっ、変なの。」
彼女はそう微笑んで、ずれたマスクを上にあげると、視線を前に戻した。
彼女の横顔を見ると、鼻筋から顎を覆う丸まった曲線が、まるで猿轡をつけて走っているかのようで、庇護欲を刺激される。
加えて、横顔が日に照らされて逆光になると、マスクに顔のシルエットが影になって浮き上がって、別の意味で恍惚とした気分になる。
汗でびしょ濡れになったTシャツ越しの肌の色、完全に透けてしまっているスポーツブラ、それから、ところどころ汗染みができたスパッツに食い込むお尻等々、
今の彼女は、自分には刺激が強すぎるくらいだ。
抑えていた欲望が爆発するときは近いかもしれない。

「はーっ、疲れたー。」
マスクをはずして、大きく息を吐くと、彼女はベンチにへたりこむように座った。
「ほれっ。」
「あっ、ありがとう。」
自動販売機でスポーツドリンクを買って彼女に渡すと、お礼を言われたので、ありがたく頂戴した。
彼女の横に腰掛けると、ふたりともなにを話すこともなく、だらしなく体を伸ばして空を見上げる。
そうして、疲れが癒えるまで時間を潰したら、ふたりでゆっくり歩きながら帰るのが日課だ。
日々を一緒に過ごす時間が多いと、自然と話すこともなくなるものだ。
それでも、この無言の時間が心地いいからこそ、彼女と離れずにいるのだなと、しみじみ思う。
ここで精神を落ち着けて帰るのが日課なのだが、今日は、残念ながら落ち着きが取り戻せていない。

「そろそろ行こうか。」
汗もかいているし、あんまり長居をするといくら夏日とはいえ、冷えて風邪をひいてしまう。
彼女の提案はごもっともだが、残念ながらエレクトした我が身の化身は、立ち上がることすら許さずに、前傾姿勢を保たざるを得ない状況に追い込んでくる。
「どうしたの?」
彼女は、前屈みで顔をあげない自分を心配すると、腰をかがめて顔を覗き込まれる。
その時、興奮状態のバベルの塔も、こんにちはしてしまったようだ。
「えっ、あっ、きゃっ……むぐぅ。」
一緒にいる以上、そういう経験がないわけではないが、どうもウブな感じが抜けずにいる。
マンネリよりかはいいだろうと、特に気にしてはいないが、時に余計な騒ぎを起こす火種ともなりかねないので、勘弁して欲しい。

彼女の口を手で覆うと、そのまま抱きかかえて茂みの中へ連れ込む。
「うぐぅ……むぅ……むぐぅ……。」
声にならない声を出すが、彼氏相手なので、大きな抵抗はされない。
というか、吐息がくすぐったい。
あっ、手を舐めるな!本当に抑えられなくなるぞ!?

彼女を抱きかかえたまま、茂みの中を進むこと数分、少し開けた場所にたどり着く。
公園の手入れをするときに道具を置いておく場所なのだろう、
こういうときのために下見をしておいた場所だ。
茂みと言っても、整備された公園なので、下は雑草ひとつはえていない。
ここはうまい具合に遊歩道から死角になっているし、大声を出さなければ誰かに気づかれることもないだろう。

そのまま彼女を押し倒すと、手に持っていたマスクを奪って顔にあてがう。
「やっやめ……。」
「うるさい、黙れ。」
ただならぬ剣幕に、彼女はされるがままに、マスクをつけられる。
普段は、帰るときに公園のゴミ箱に捨ててゆくが、彼女のスパッツにはポケットもないので、手に持ったままだ。
「これでおまえは喋れない。」
「……えっ?わたし、喋れるよ?」
突然、間抜けたことを言うのだから、緊張が解けてしまったのだろう、彼女は、なにを言ってるの?と言った顔でこっちを見る。
「水を差さないでくれよぉ。そういう雰囲気を楽しみたいんだからいいのぉ!!」
我ながらひどい言い訳だ。
「ふふっ、わかったよ。」
子供っぽいところのある彼女だが、ときどき、自分が子供に思えるくらいの大人の包容力を見せることがある。
聞き分けのない子どもをあやすかように微笑む彼女に、完全に理性の糸が切れてしまった。
「このまましたい。いいよね?」
「……うん、わかった。」
彼女はしばらく考える仕草をしたが、優しく自分を見つめ、そう頷いた。

「んっ、あんっ……。」
彼女に覆いかぶさると、鼻息荒く、彼女のにおいを堪能する。
漏れる吐息にマスクが激しく形を変える。
「ねぇ、汗だくでくさくない?」
「佳奈子の濃いにおいがする。たまらないっ…!!」
「んっ、ばかっ……!!」
立体マスクで隠れた口に、潤んだ瞳。
まるで、革の厳重な猿轡に言葉を奪われ、強制的にわいせつなことをされているようだ。
現実で見ず知らずの人にやったら犯罪だが、その背徳感が更に興奮を掻き立てる。

「ちょっと四つん這いになってみて。」
「えっ?……こっ、こう?」
彼女はお尻をこっちに向けるようにして四つん這いになった。
「じゃあ行くよ……。」
「なっ、なになに?きゃあああっ!!!!」
彼女のスパッツ越しのお尻に顔を埋める。
スパッツの限りなくつるつるに近いザラザラ感と、汗で湿った濃いにおいに頭がくらくらする。
彼女の顔は見えないのが残念だが、ひどく淫らな声をあげているのが聞こえる。
スパッツに顔をこすりつけ、息を荒く吹きかけるたびにその声が大きくなる。
「あっ、あっ、あっ、やめてぇ…おかしくなっちゃう…。」
外だからという恥ずかしさもあるのだろう、声を抑えようと、必死に耐えている。
四つん這いだから、手で口も抑えられない。
薄い小さなマスクだけが彼女の声を遮る唯一の術だ。
しかし残念ながら、薄い不織布のマスクは、防声具としては役不足。
せいぜい、恥ずかしさに見を悶えさせてくれ。

スパッツ越しのお尻をひと通り堪能したあとは、彼女を大股開きにして自分の上に座らせる。
「こっ、今度はなに?」
今までにない、奇妙な変態プレイを強要されて、彼女は困惑気味だ。
「乗って。」
彼女のスパッツの股の部分と自分のジャージの股の部分を合わせるように移動させると、
「そのままこするように動いて!」
本当は、バベルの塔をむき出しにしてこすらせるのがいちばん気持ちいいのだろうが、畜生のくせに変なところで踏み切れない。
彼女は薄いスパッツだけでも、自分は、ある程度厚さのあるジャージ、その上、更に下着を履いている。
「あっ、あんっ、なにこれ、少し、気持ちいいかも……。」
少しどころじゃない。
分厚い生地越しでも、上に乗った体重で押し付けられる圧力が、俺のちっぽけなピストルを激しく刺激する。
はっきり言って、もの凄く気持ちいい。
今度は、彼女のマスクをした顔もしっかりと拝むことができる。
彼女は、目をとろんとさせて、マスクを呼吸で激しく動かしている。
さっきの運動と、今の運動(?)で、マスクは完全に汗を吸って、まるで呼吸を阻害する猿轡のようだ。
その息苦しさが更に興奮を高めているのか、動きが早くなる。
「うんっ、足りない、もっと、もっとちょうだいっ……!!」
彼女の股の部分は、完全に汗じゃない染みができはじめていて、俺のジャージすらも濡らすくらいに。
「もっと、もっと、もっとぉっ……!!!!」
スパッツからは糸を引くほどに愛液が溢れだしている。
更に動きを早める彼女。
「あっ、あっ、あっ……ああああっ!!!!!」
限界が近いのだろうか、彼女は目を見開いて、更に呼吸を荒くする。
「いくっ、いくっ、いくうううううううううううっ!!!!!」
激しい痙攣のあと、へたり込むように倒れこむ。
スパッツは、汗とは違う何かでびしょびしょになっており、彼女はうつろな目で、マスク越しに荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
呼吸にマスクがペコペコへこんだり膨らんだりを繰り返している。
いくら自分が畜生と言えど、さすがに外で本番をするつもりはない。
それで満足か?と聞かれるだろうが、男の状況なんて聞きたくもない諸君は多いだろう。
ぼかして言うのなら、俺のニューナンブは、かつて無いほど激しい暴発をして、ジャージの下はぐちょぐちょになっているよ。
もちろん、恒例の賢者の時間がやってきて、冷静に人生の意味なんてものを考え始めてしまっている。
苦しそうな彼女からマスクをはずすと、そのままジャージのポケットにしまい込む。
ポイ捨てはいけないことだ。
皆の公園、きれいに使おうというスローガンに則って行動しているだけで、他意はないし、決して、持ち帰ったそのマスクで再びナニかをしようとか考えているわけではない。

「はぁはぁ、気持ちよかった……また、しようね?」
きっと、今夜は久しぶりに燃え上がるかもしれない。
正直に言えば壊れる関係もあるだろうけれど、はじまることだってある。
そのときはカミングアウトしてみようか、自分のマスクフェチを。