彼女はすぐに見つかった。
店を出てすぐの通り。歩道の植木の端に腰掛けて、両手で口を覆う彼女の姿。
「う~っ!!」
僕の姿を見つけると、涙目で恨みがましく睨みつけてくる。
ひとまず場所を移動しようと、彼女に新しいハンカチを与えて移動を促す。
ここで、口枷をはずしてしまってもよかったけれど、大通りでないにせよ、人通りがある。
しばらくハンカチで抑えつつ我慢してもらう。
近くの駐車場に車を停めてあるので、そこで後処理をしようという目論見だ。
「う~っ、ふ~っ!!!」
場所は変わって、車の中。
ハンカチで口元を抑えつつ、相変わらず僕を睨みつけて、非難的な声にならないうめき声をあげる。
これは相当怒らせてしまったようだ。
「ごめんって。さすがにちょっとやりすぎた。反省してるから。」
「ふ~っ!ふ~っ!!ふ~っ!!!」
眉間に深くシワを寄せ、目を見開いて非難と怒りの姿勢を示す。
「何を言ってるのかわからないから、とっていいよ。それから、これ、おしぼりもらってきたから、顔を拭いて。」
彼女は、口を覆っていたハンカチを置くと、両耳にかかっていたマスクの紐に手をかけ、マスクをはずす。
ボールギャグも耳掛け式のものだったので、一緒に外れる。
唾液でびちょびちょになっていたマスクは、顔から唾液の糸を引きつつ彼女の顔から離れる。
そのままボールギャグをマスクで包むと、ムッとした顔で僕に渡し、自分はそのままもらったおしぼりで乱暴に顔を拭く。
「もうっ!ホント最悪!!顔はよだれでべちゃべちゃだし、店員さんには怪しまれるし、あんた何考えてるの!?猿轡はまだしも、あんなマスクじゃ丸見えじゃないっ!!わたしに恥をかかせたいの!?!?」
「だから悪かったって。まさかあそこまで色々重なるとは思わなくてさ。」
最後のひと押しをしたのは自分だということは黙っておく。
この調子じゃ、余計なことを言ったら更に愚痴が長引きそうだ。
「大体、あんたはねぇ!いつもいつも連絡一つもよこさないくせに、こういう都合のいい時だけ呼び出して……グチグチ。」
あぁ、はじまってしまった。
自業自得とはいえ、こうなるとしばらくとまらない。
これで落ち着いてくれるのなら安いものだが。
「だから、あんたはわたしのことをもう少し……って、ちょっと!聞いてるの!?」
「……あっ、うんうん、聞いてる聞いてる!!」
やばい、ぼーっとしていた。
「あんたねぇ、本当に反省してるの!?いつもいつも口先ばっかりで……。」
「あーわかったわかった、ほら、ごめん、反省と労いをこめて、マッサージしてあげるから~。」
「ちょっ、勝手に……んっ……さわるなぁっ!!」
肩を揉んだだけなのに、そんな大げさな。

日頃の疲れが溜まっていたのか、彼女は、僕に体を委ね、マッサージに羽根を伸ばしている。
「……じゃあ、今度は背中に手を組んで、そのまま伸ばしてみて~。」
「……こう?」
「そうそう、肩甲骨を意識して伸ばすと気持ちいいでしょ?」
「……うん、確かに背中のこりがほぐれてく感じがする。」
「それじゃ、ちょっと待ってね~。」
ガチャリ。
「えっ?」
彼女の手にかけたのは手錠。
にっしっし、これで彼女の自由は奪ったようなもんだ。
さっき、ぼーっと考えていたのはこのための段取り。
我ながら懲りないと思う。
「あっ、あっ、あんたときたら、やっぱり懲りてないじゃないっ!!!」
「あー、そんなこと言っていいのかなぁ?そんなうるさいお口には、またチャックしちゃおうかなぁ?」
さっき外したマスクのなかから、ボールギャグだけを取り出して、おしぼりで涎をぬぐう。
そして、そのまま彼女の口に近づける。
「なっ、なっ……なに?また、それ、つけられるの!?やだっ!!やだからねっ!?!?んっ……いやっ!!ふーっ、ふーっ……うぐっ!!」
頑なに口を開かない彼女の鼻をつまむ。
そして、息苦しさから息を吸おうとあけた彼女の口にそのまま突っ込むと、先ほどと同じように、両耳に引っ掛けて固定した。
「うっ、うーっ!!!」
まるで親の敵を見るかのように、こっちを睨みつけ、大声で叫びつつ、体をよじらせ抵抗を試みる。
しかし、両腕を後ろで縛られた彼女に脱出するすべなどあるわけもなく、暴れれば暴れるほど、ただ体力が奪われるだけだった。
「ふーっ、ふーっ。」
「じゃあ、この格好で外に出ようか。おっと、カモフラージュのためにマスクをしなきゃね。」
そう言って、袋の中から彼女の唾液でベチャベチャになったマスクを取り出す。
「うーっ!!!」
さすがに抵抗の姿勢を見せる彼女。
「……と、思ったけど、さっきの見る限り、それじゃ下になにをやっているのかバレバレだよね。これで外を連れ歩いたんじゃ、僕が怪しまれちゃう。」
「ふーっ、ふーっ……。」
あなたは、自分のことしか考えてないのね、とでも言いたいのだろう、彼女は息を荒く吐き出す。
「はいはい、じゃあマスクで隠そうね~。」
今度取り出したのは、青いプリーツマスク。
最初に彼女がつけてきたのもプリーツだが、今回は医療現場で多く使われる青い色をしたもの。
何故、白じゃなくて青なのか、それは、そのうちわかるよ。
マスクを半分に折り、折り目が中心に来るように、彼女の顔にあてがう。
そのまま紐を両耳にかけると、蛇腹をめいっぱい広げる。
再び鼻筋に合わせて、ノーズフィッターを折り曲げると、目の下から顎まですっぽりと丸みを帯びて覆われた、素晴らしいマスク姿の彼女のお目見えだ。
「すーっ、すーっ……。」
彼女は、マスク越しに息ができるかを確かめるように、軽く深呼吸をする。
マスクは、頬の隙間もしっかり覆っているようで、呼吸に合わせて、マスクの膨らみが収縮を繰り返す。
その光景が、なんか、生命の神秘的なものを感じさせて、凄く……興奮してしまう。
「ほら、行くよ。」
「うむぅんっ!!」
彼女にコートをはおらせると、ボールギャグの紐が見えないように、彼女の髪をおろして紐を隠す。
そして、強引に車の中から連れ出す。
羞恥プレイ第二弾のはじまりだ。

駐車場からほど近い駅前の繁華街。
休日の昼過ぎは人通りが多く、ある意味目立たずに済む好条件と言える。
同時に、多くの人の目にさらされるというデメリットもあるが。
「う~っ、ふ~っ……。」
彼女は目立たぬように、肩をすぼめ、僅かに内股になりつつおぼつかない足取りで歩く。
僕は、両手を封じられた彼女の肩を抱きかかえる形で歩いているが、それは、彼女が転ばないように支えているだけではない。
ときどき、支えた彼女を軽く揺さぶる。
そうすると、極力涎が落ちないよう、気をつけている彼女の努力が台無しだ。
ホント、我ながらとんでもない野郎だ。
「うっ!?うーっ!!!」
彼女は、抗議の声をあげ、涙目でこっちを睨みつける。
青いマスクには、口を閉じられない彼女の口から飛び散ったであろう涎が点々とマスクを深い色に染める。
そう、青いマスクを選んだのはこういうことだ。
白いマスクではあまり目立たない唾液の染みが、青いマスクだと、より濃い色に染めて、濡れている部分が非常に目立ってしまう。
彼女のマスクは、今のところぐちゃぐちゃに濡れているわけではないが、まるで絵の具を散らしたかのように、唾液の染みが点々としている。
遠くからではわからないが、きっと、すれ違う人は、
現に、ときどきすれ違う人が、彼女の姿をじっと見たり、驚いた顔で二度見をしたりする。
そのたび、彼女は羞恥心に顔をうつむかせるが、そうすると、ボールギャグにたたえていた唾液が、たらーっとこぼれてマスクに大きな染みをつくるというジレンマに陥る。
手が使えないから、足で蹴ってきたり、踏んづけたりと色々手の込んだ攻撃をしてくるが、痛いけれど、それ以上に彼女が味わっている羞恥心を思うと、笑みすら漏れる。
手が使えないけど、手が込んでいるという……なんでもない。
「ほら、あの人も君のことジーっと見てたよ?もしかしたら、気づいてるのかもしれないね。君の恥ずかしい姿に。」
耳元でささやいて、彼女を辱める。
「うっ……ううっ……。」
歩くたびにその振動で、彼女の口からは唾液がこぼれ落ち、マスクにだんだんと大きな染みをつくってゆく。
「みてごらんよ、君のマスク、おもらししたみたいに大きな染みができてるよ?」
通りの一面ガラス張りのディスプレイにうつる僕と彼女の姿。
驚くように目を見開いたガラスに映る彼女の、そのマスクには、本当にお漏らししたかのように、大きな染みができていた。
「うっ……。」
恥ずかしそうに下を向く彼女。
もう何度そうやって羞恥心に顔を背けてきたのだろう。
「俯いてちゃ見えないでしょ?もっとしっかりみなよ、自分の恥ずかしい姿。」
彼女の顎に手をやり無理に顔を起こす。
そして強引に窓ガラスへと顔を近づける。
「う~っ!!う~っ!!」
「ほらほら、おくちがおもらししちゃって恥ずかしいねぇ。もう大人なのに、おもらしした姿、みんなに見られちゃってるよ?」
「うっ……うううっ!!」
必死に抵抗しようと、膝で蹴ってくるけれど、拘束された腕をかばって激しい動きができない。
「こんなに近かったらさすがに見えるでしょ?思う存分自分の恥ずかしい姿を目に焼き付けなよ。」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!!」
ガラスに吐息がかかって白く染まるくらいの距離。
マスクごと顔を無理やり固定しているから、マスクの生地がボールギャグにぴったりはりついて、押さえつけるたびに、マスクの生地越しにじんわりと唾液が染み出てくる。
あーもう、本当にめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな欲求を抑えつつ、彼女をディスプレイから離し、何事もなかったかのように、再び肩を抱いて歩きだす。
「そろそろおやつの時間だね。あそこの店でなにか食べようか。」
「うっ?うーっ!うーっ!!」
彼女は、一度僕を不安そうに見つめると、さっきの喫茶店のことを思い出して、髪を振り乱して反対の意志を表す。
「ほらほら、そんなに首を激しく振ると、また涎が飛び散っちゃうよ?それに、もうさっきみたいにその格好でお使いはさせないから。」
「うっ?」
本当?って感じに下から見つめる彼女は、いつもの気の強い性格が鳴りを潜めて、凄くかわいらしい。
だから、こういうことをやめられないのだ。

入ったのはファストフード店。
最初の喫茶店のようにおしゃれな店ではないが、ちょっと腹ごしらえするのには手頃でちょうどいい。
それに、ここを選んだのだって思惑があるのだ。
隣り合って座れるように、カウンター席に彼女を座らせると、彼女を置き去りにして注文をしにゆく。
「ううっ……ふぅっ……。」
彼女は相変わらず、涙目で俯いている。
「ほら、買ってきたよ。」
トレーには、シェイクとポテト。
おやつにはちょうどいいくらいの量だ。
「うっ!?」
シェイクがふたつあるのを見て、ようやくこの拘束が外されるのかと思って、彼女の目が輝く。
「いただきま~す。」
ひとりでシェイクとポテトを食べ始める僕。
その光景を、しばらくぽかんとした表情で見つめたあと、肩を震わせ、うらめしそうにこっちを睨む彼女。
「う~っ……。」
「うん?なに??飲みたいの??」
そう言って、おもむろに彼女のマスクに手をかける。
「ううんっ、ううんっ!!!」
先ほどとは打って変わって、彼女は必死に首を振って抵抗の意を表すが、構わずマスクをあごにずらす。
「うーっ!!!!」
あらわになる赤いボールギャグと、唾液で濡れた口周り。
穴からは次から次へと唾液が溢れ、股の間を濡らすかのように一本の唾液の糸がつつーっと滴る。
「ほらほら、そんなに叫ばない。周りの人の注目集めちゃうよ?」
「ううっ……。」
彼女の叫び声に、何事かと注目する他のお客さん。
壁に対面するカウンター席からは、彼女の痴態を見られることはないが、自分が注目を集めていることを自覚したのか、羞恥心にうつむき、体を震わせている。
「ね?あんまり大声出すと目立っちゃうから静かにしていようね。」
そう言って、ボールギャグの穴からストローを突っ込む。
「うっ!?」
「ほら、飲んで飲んで~。」
「うっ!?う~っ!!う~っ!!」
彼女は、必死にシェイクを吸おうとするが、ボールギャグの他の穴から空気が抜けて、うまく吸うことができない。
ふしゅーっ、ふしゅーっ、という間抜けな音が、ボールの穴から漏れる。
その間にも、たまった涎が次々溢れ、彼女の股のあたりを濡らす。
「あー、もう、じれったいなぁっ!!」
「……うっ!?」
しびれを切らした僕は、彼女の顔を上に傾けると、そのままシェイクの容器を押して、シェイクを流し込む。
「うっ、うっ、うっ……うぷっ……ごふぅっ!!」
……やばい、またやりすぎた。
吐出されたシェイクは彼女のコートを白く汚し、口周りも白い液体でべっとりだ。
「うっ……ううっ……。」
涙目でこっちを睨みつける彼女。
あごにマスクをかけて、ボールギャグで口の自由を奪われ、シェイクで口の周りを汚す光景はひどくそそるものがあるけれど、今日は既に一度やらかしている。
この場で激昂した彼女に反撃されたらたまらないので、口の拘束も腕の拘束も解きはしない。
ハンカチで彼女の口を軽く拭いて、そのままマスクを上にあげて隠す。
シェイクがベタベタするだろうから、タオルを洗面所で濡らし、再びマスクをとって口の周りを拭い、ついでにシェイクのついたコート、涎の落ちた股のあたりを拭く。
「ふんっ!!」
「あいたっ!!!」
……股を拭くときに余計なことをしてしまったせいか、彼女のヒールに思い切り足を踏まれる。
今日はやりたい放題してしまったので、仕方あるまい。
唾液がこぼれないよう、マスクの中に再びハンカチをつめると、そのまま店を出る。
「んっ!!」ごんっ!!
「ぶっ!!!」
後ろを歩いていた彼女に体当りされ、扉に顔をぶつける。
手の自由が奪われていようと、彼女の怒りは相当なようで、自分でまいた種とはいえ、これからが思いやられる。

夜の街を車は走る。
「……本当に、今日は、申し訳ありませんでした。」
僕の両頬に赤く煌々と輝く見事なもみじの葉。
手の拘束を解いた彼女からお見舞いされたものだ。
まだ、じんじんと痛む頬。
「ほんと、あんたはいつまでたっても懲りないんだから……。」
何故か、彼女はまだマスクをつけたまま。
化粧がとれてしまったから、なんでもいいからマスクをよこせという彼女。
ぴっちりマスクは持っていなかったから、つけているのは先ほどの青のプリーツ。
「……ほんと、反省してます。」
今回は、こっぴどく仕返しされてしまった。
さすがに少しは懲りた。
「……なんて言いながら、またするんでしょ?言葉だけの反省はもういいから。」
じとーっとした目で見られるけど、声の調子は少し楽しそうだった。
あるいは彼女の隠されたマスクのしたでは笑みが浮かべられてたかもしれない。
「……わかった。今日だけはあんたの趣味に付き合ってあげるから。」
そう言って、僕のイチモツのさきっぽを、カリカリと爪でひっかく。
その、いじらしく、こそばゆい感覚に身震いしつつも、運転中だからと彼女をたしなる。
そして、そのまま車は、夜の帳の中へと消えていった。

…end