わたし、小早川清香。
教育大学の3年生。
今日からはじまる教育実習。
小学校教諭に絶対になりたいというわけじゃないけど、教育学部に進んだ以上、資格はとっておきたい。
そんな軽い理由で、10年ぶりくらいの母校に帰ってきている。
一日目は、教室の後ろにたって授業を見学するだけなんだけど、突然入ってきた自分という異物に向けられる好奇の視線、それによって、スムーズに進んでいるとは言いがたい授業。
ベテランの教諭でも、新たな興味の対象が入ってくるだけで、こうも大変な状況になるのだということをふつふつと感じている。
子どもたちは、講義で学んできた前提のように動くわけではなく、はじめて相手をする生身の人間というものに四苦八苦だ。
ただ突っ立って見ているだけでも、学校教諭の大変さを身にしみて痛感している。
まだまだ手のかかる1,2年生、体が大きくなって反抗期に入りはじめたりで手に負えなくなる5,6年生。
それに比べたら、3,4年生はある意味いちばん小学生らしく、教員歴の浅い人は、その代に回されることが多い。
わたしも例外じゃなく、3,4年に配属されているが、それでもこの様相だ。
一応、大学で模擬授業の演習こそしているけれど、あんなにスムーズにことが進むわけがない。
ゆくゆくは、子どもたち相手に自分で授業をしなくてはいけないのだと思うと、先が思いやられる
お昼の前の4時間目の授業の途中、まだ昼食までは少し時間がある。
空腹も相まって、子どもたちの集中力が切れてくる時間だ。
後ろの扉から学年主任(女)が顔を出し、ジェスチャーで廊下へ出るように促される。
「あの……なにかありましたか?」
「もうすぐお昼でしょ?うちの学校、教育実習生の子にも生徒の目線に立ってもらうために、一緒の格好をして配膳してもらうの。はい、これ。」
そう言って渡されたのは、給食着が入っていると思われる袋。
給食着なんて着るの、どのくらいぶりだろうか。
「ちょっと遠いけど、職員室の横に女子更衣室で着替えてもらえるかしら。朝、着替えてもらったところね。わたしも職員室に戻るから、一緒に行きましょう。」

「ほら、あななたちの年代って、お弁当だったり食堂だったりで、こういう給食を経験していない子も結構いたのよ。自分たちでごはんやおかずをよそったことのないくらいな子もね。一日二日でどうにもなるものじゃないけど、何も知らないよりは安心できるかなって。」
更衣室への道すがら、先生が言う。
確かにわたしも、中高と私立の女子高に通っていたから、昼食はそれぞれがカフェでとる形式だった。
もしかしたら、配膳をするのは小学校以来かもしれない。
「配膳と言っても、子どもたちに付き添って様子を見るだけだから、そんなに萎縮しなくてもいいわよ。」
わたしの不安に気づいたかのように言葉をかける先生。
そうこうしているうちに、更衣室へ着いた。
「それじゃ、授業が終わるのを目処に教室につくようにしてね。」
そう言って、職員室へと入ってゆく先生。
「あっ、一応、大人用のサイズだけど、サイズが合わなかったら言ってね。わたし、職員室にいるから。」

わたしは給食着を袋から取り出すと、そのまま更衣室の机に広げる。
中に入っているのは、給食着とシャワーキャップみたいな帽子、それからビニール袋に入った未開封のマスク。
「あー懐かしい。でも、これ、大人になってから着るものじゃないよね。」
給食着を手に取り、そのまま羽織ってみる。
「……さすがにこの上から着るのはきついか。」
誰に聞こえるわけでもなく、つぶやく。
わたしは、まだ真新しいスーツの上着を脱ぐと、自分用に与えられたロッカーにそれをかける。
そして、再び給食着を羽織って、ボタンをとめる。
「……サイズは問題ないんだけど、これ、やっぱりハタチを超えた大人が着るものじゃないよ……。」
更衣室に置かれた姿見を見ると、襟のない首元からブラウスの襟が出てしまっているし、子供っぽさと大人っぽさが入り交じっていて、少し間抜けな感じ。
ゴム袖で絞られた腕とか、機能性はいいのだろうけれど、なんか、幼稚園児の制服を着せられているようで、幼児プレイを強要されているかのような恥ずかしさに、思わず赤面する。
「あとは、この帽子をつけて……ううんっ……髪の毛でモコっとなるし、ゴムの締め付けでおでこにゴムの跡がついちゃいそう。それに、やっぱりシャワーキャップみたいでやだぁ。」
それでも、学校の方針なんだから、文句は言ってられない。
教師たるもの、子供のお手本となるような大人でなくてはいけないし、適当にやったら実習の成績にも関わる。
「……やっぱり、耳までいれないとダメだよね。」
そうなると、先にマスクをつけたほうがいい。
先ほど、机に置いたマスクの袋を手に取る。
不透明で真っ白なパッケージには何も印字されておらず、業務用を思わせるそのマスク。
「……やけに分厚いなぁ。交換用に何枚か入ってるのかな。」
そんな疑問を持ちつつ、袋のパッケージを開ける。
中から出てきたのは、昔ながらのガーゼのマスク。
ただそれは、大人用のそれの更に一回り大きいのではないかと思うほどの分厚く大きなマスク。
紐も細いものではなく、ゴムの平紐で、まるで拘束具の様相だ。
「なに……これ。こんな大きなマスク、見たことない……。」
思わずつけるのを躊躇してしまうけれど、時計を見ると、悩んでいるほど時間がない。
思い切ってマスクを口に当てて、紐を耳にかける。
あれだけ大きく分厚いマスクに、更に中布として分厚くガーゼが詰められていたので、息を吐くと、マスク全体に熱がまわって少し息苦しい。
マスクの上部には、ワイヤーが入っているらしく、折り曲げることで隙間をつくらないように曲げる。
「……あれ?」
マスクが大きすぎるのか、ずれてきてしまう。そういえば昔、ヒモが伸びきってしまったマスクをしてきた子がいて、逐一マスクがずれては直してはを繰り返していたっけ。
結局、片手でマスクを抑えて配膳をしてたけど……って、そんな思い出に浸っている場合じゃない!!
「……これ、どうしよう。」

「あの……先生。」
時間もまずいので、職員室にいる学年主任の先生のところに相談に行く。
「……あら、どうしたの?給食着のサイズがちょうどいいみたいね。よく似合ってるわよ。」
先生はニコッと笑ってそう言うけれど、そういう言葉は羞恥心を煽るだけだ。
あいにく、他の先生は出払っているらしく、学年主任の先生しかいなかったことが唯一の救いだ。
「あの……マスクのほうなんですけど……大きすぎてずれちゃうんです。」
そう言ってわたしは、マスクをつけてずれる現状を見せる。
「……ごめんなさい。去年、男の子のときに小さすぎたから、フリーサイズで頼んだんだけど、やっぱり女の子には大きすぎたかしらね。ちょっと貸してね。」
先生は、わたしからマスクを受け取ると、太い紐を切って短くしてしまう。
かろうじて耳にかかる程度に。
「はい、できたからつけてみて。」
手渡されたマスクをつけてみる。
「うぐっ……。」
くっ……苦しい。
伸縮性のない生地が顔をぎゅっと押し付ける。
先生、きつすぎますっ!!
適当に紐を短く切ったから、マスクが本当に拘束具のように食い込んでいる。
「あら、いいじゃない。それなら大丈夫よ。」
なにがいいのだろうか、こんなに締め付けられて、これじゃまるで猿轡だ。
「そろそろいい時間だから、ロッカーの戸締まりしたら、すぐに教室に向かってね。」
「……はい。」
分厚いマスクに阻まれ、くぐもってしまった声は、果たして先生に届いたのだろうか。
再び更衣室。
姿見にうつるのは、全身白ずくめのわたし。
給食着、給食帽も恥ずかしいけれど、なによりこのマスク。
顔のほとんど、目の下から顎まですっぽり覆ってしまっているマスク。
ほとんど目くらいしか出ていない、本当に白ずくめだ。
なんか、不審者みたいで恥ずかしい。

「ふーっ、ふーっ。」
お昼前の校内を歩く。
少し早めに授業を終えたクラスからは、喧騒が聞こえる。
それでも、チャイムが鳴るまで教室外に出ないことを徹底されているためか、廊下に人影は見当たらない。
歩きはじめると、いつもはなんともないことでも、分厚いマスクに阻まれているせいで、呼吸が苦しい。
加えて、そんなマスクの締め付けが、他の部分の締め付けも意識させる。
手首のゴム襟、給食帽のゴム。
そんな締め付けすら……恥ずかしくなってくる。
全身を白ずくめにされて、ガチガチに縛られて、ハタチを過ぎて、こんな……変態みたいな格好をさせられているわたし。
教育実習をしている小学校でそんな格好をしていると思うと、背徳感でおかしくなりそう。
息苦しさと締め付けに顔を紅潮させつつ、なんとか教室の前にたどり着く。
教室につくと同時にチャイムが鳴り、隣のクラスから我先にと飛び出してくる男児。
「やったー!きゅうしょくだ~!!……あっ……。」
勢い良く飛び出してきたところで、わたしと目が合う。
先ほどの勢いはどこへやら、一瞬ギョッとした顔をすると、怯えるように言う。
「あっ……あの~……こんにちは~……。」
こんにちはってなんだよ、こんにちはって……。
「はい、こんにちは~。」
分厚いマスクに阻まれてひどくくぐもった声が出てしまった。まるで、布団に思い切り顔を押し付けて声を出したかのような。
マスクと給食帽の僅かな隙間から覗く目は、精一杯
「あの~……すごくくるしそうだけど……すきでそんなかっこうしてるんですか??」
「っ!?」
格好のことを言われて、恥ずかしさに思わず目を見開いてしまう。
「ひっ!?ごごごごめんなさ~い!!」
……やってしまった。
「少し騒がしいけど、なにかあったの~?」
教室から、担任の先生が出てくる。
わたしの担当の先生で、一回り年上くらいだろうか。
学校側の配慮で、同性の先生を割り振ってもらえた。
「って……あれ?小早川先生……ですよね。」
きょとんとした表情を浮かべて、こちらを見る先生。
「……はい。」
「顔がほとんど隠れててわからなかったわ。それじゃ、配膳の子と一緒におねがいしますね~。おーい、先生来たから一緒に行ってあげて~。」
はーい、という声が聞こえ、配膳の子と牛乳配達の子が出てくる。
「せんせ~、おねがいしま~す。」
「……は~い、先生もこの学校のことはよくわからないから、色々教えてね~。」
かがんで目線を合わせて、そう言う。
相手の目線に合わせるというのは、多感な時期の子供にとって有効なことだ。
……なんてことを冷静に考えられないくらいだけど、戸惑いを感じさせないように、極力平静を保つ。
目だけでもうまく笑えたと思いたい。

「ふーっ……ふーっ。」
……苦しい。
運動部員の中には、マスクをして肺活量を鍛える人もいるけれど、今、その気分をまざまざと味わっている。
「せんせー、すごくくるしそう。だいじょうぶ?」
さっきから苦しげに荒い呼吸を繰り返しているわたしに、ひとりの女の子が心配する。
「うん、大丈夫だから、大丈夫……。」
「でも、せんせーのますく、すごくおっきいし、かおがみえないよ?」
子どもたちがつけているのは、わたしが小学生の頃つけていたガーゼのマスクではなく、使い捨ての蛇腹状のものだ。
今は、子供サイズも出ているし、無邪気な子供にとって汚れはつきものだから、使い捨てのほうが何かと便利だったりする。
「っ!?……大丈夫……大丈夫……だからね?マスクのことはね?」
マスクの事を指摘されると、戸惑ってしまう。
だって、自分でも普通じゃない格好をしているのがわかるのだもの。
幼稚園児だったら、こんな大きなマスクに覆われた人を見たら、怖くて泣きだしてしまうかもしれない。
しかし小学生といえど、まだまだ子供。
心配も少なからずしてくれているのだろうけれど、見たことのないものへの好奇心もあるだろう。
マスクのことをピンポイントで訊いてくるのがその証拠だ。
「……うん、でも、せんせーのおかおがみえなくて、ちょっとさびしい。」
「心配してくれて、ありがとうね。でも、大丈夫だから。」
精一杯強がって、安心させるように笑顔を浮かべる。
本当は、全身白ずくめの自分を妄想して、さっきから、マスクの締め付け、ゴム襟と給食帽の締め付けが相まって、体がほわほわとしている感じ。
気を引き締めようと、両手で頬をパンパンと叩くと、マスクの生地の感覚がした。

給食室。
子どもたちはせっせと配膳台におかずやらごはんやらを乗せてゆく。
あくまで付き添い。
子どもたちが危ないことをしない限り、手を貸すことはしない。
自分たちでやることが重要なのだ。
牛乳係の子は、牛乳の入ったケースをもらうと、先に教室に戻って、今頃は、配っている頃だろうか。
ちょうど手のすいた頃なのか、給食のおばちゃんが声をかけてくる。
「あら、今年の実習生は女の子なのねぇ。」
もう、女の子と言える歳でもない気もするけれど、年上の人からすれば、いつまでも女の子なのだろう。
「えぇ、地元がこちらでして……。」
「あら、そうなの。去年は男の子ばかりだったからねぇ。おばちゃん嬉しいわぁ。」
そう言って、嬉しそうに笑う。
給食のおばちゃんが着ている服は、わたしのものと違って、普通に襟のついたもので、ゴム袖じゃないもの。
シャワーキャップのような帽子は、三角巾に変わっており、これなら大人が着ても違和感がない。
マスクは、よく見る使い捨てタイプで、至って普通の食品を扱う人の格好だ。
「給食の実習はいいと思うけれど、いくら気持ちを知るためとはいえ、小学生と同じ格好をさせるのはちょっとって思うわ。やっぱり少し恥ずかしいでしょ?その格好。」
「……えぇ、正直、ちょっと恥ずかしいと思うこともあります。」
「そうよねぇ、あなたみたいにかわいい子だったらいいんだけど、去年来てた男の子なんて、ちょっとかわいそうなんじゃないかなぁ、なんて思ったりね。」
「はぁ……。」
男の子でこんな格好させられたんだ……それに比べたらわたしなんて……。
「まぁ、本人は楽しそうだったからいいんだけど。どっちにしろ、わたし、教育委員会の人間じゃないからこんなこと言ったって仕方ないんだけどね~。」
凄いなぁ、その男の子。
「でも、あなたもそんな大きなマスクつけさせられて、かわいい顔がほとんど見えないわねぇ。」
「……えっ!?」
「せんせ~!おわったよ~!!」
「あっ、準備終わったみたいよ?はやく行ってあげて。」
唐突に切り上げさせられたおばちゃんとの会話は、最後に、自分の格好の異様さを意識させられた。
恥ずかしい白ずくめの格好……その余韻を引きずって、元気に配膳台を押す子たちの後ろを、どこか夢遊病患者かのように追いかける。

得体の知れない白い物体(わたし)を、興味本位でちらちらと見ては通りすぎてゆくクラスの子たち。
配膳のときは、後ろに立って、彼ら彼女らの様子をじっと観察するだけ。
はっきり言って手持ち無沙汰。
そうなると、さっき意識してしまったマスクと給食着と給食帽の締め付けの感覚をより強く意識してしまう。
それがまた、自分が今、全身白ずくめだということを意識させたりして、マスク越しに吐出される吐息が顔をじんじんと暖め、加えて、通りすぎてゆく子どもたちの視線……それが相まって、いけない気分になってくる。
あっ、やばい、なんか、股が湿ってきたかも。
「ふーっ……ふーっ……。」
苦しい吐息を意識されないよう、静かに、回数を抑えて呼吸をする。
酸欠状態とも言えるその状態が、頭を麻痺させ、固く閉ざしていたはずの性のリミッターを緩やかに溶かし、じわじわと溢れ出る感覚がする。
床に落ちないよう、時に内股気味に股をこすりつけながら。
「これ、せんせーのね。きょうはわたしたちのところでたべるからもってくね。」
遠い世界にトリップしていた意識がそのひとことで引き戻される。
「……ありがとう。」
なんとか笑みは浮かべられただろうか。

Yシャツが汚れてはいけないので、帽子だけとって、そのまま席につく。
キツキツのマスクを外すと、分厚い生地に阻まれていた、こもった息がむわっと溢れだす。
給食帽で乱れた髪を手櫛でとかすと、少し汗ばんだ肌をハンカチで拭って、何事もなかったかのように澄ましてみる。
顔の紅潮が残ってないか心配だけど、あいにく自分の姿を確認できるものはない。
「いただきます!」
当番の号令を復唱して、給食を食べ始める。
給食着は着たままだけど、あの給食帽と禍々しいマスクを外せただけでも良かった。
「せんせー、なんであんなにおっきなマスクをしてたの?」
さっき給食を運んでくれた女の子が、本当にわかりませんといった顔で聞いてくる。
「えっ?あれ?いや……あれはね?」
いつの間にか、雑談していたはずの、同じテーブルを囲っていた子たちもわたしに注目している。
……まさか、そこを突いてくるとは思わなかった。
そうだ、子どもたちは見たことのないものに強い興味を示すんだった。
「だって、あんなにかおのかくれるマスクをしている子、ほかにいないよ?せんせー、なんかふしんしゃみたい。」
「っ!?」
先ほどの自分の姿を思い出して、思わず赤面し、顔がこわばってしまう。
「……せんせー、こわい。」
涙目でこっちを見る女の子。
「……ごめんねぇ、先生、お腹が空くと、怖い顔になっちゃうの。それを隠すためなの。ほら、みくちゃんも怖かったでしょ?先生の顔。」
「……うん、凄く。」
「だから、先生の怖い顔でみんなを驚かせないために、ああやって隠しているの。」
「……そうなんだぁ。ごめんね、せんせー、あんまりいいたくなかったでしょ?」
ホッとしたかのように息を吐くと、安堵の笑みを浮かべるみくちゃん。
我ながら強引だけど、どうやら納得してくれたようだ。
「ううん、あんな格好してたら、だれでも不思議に思うもん。仕方ないよ~。」
あんな格好……全身白ずくめの異様な姿……みんなに見られて恥ずかしい……恥ずかしくてわたし、興奮しちゃってる……ここ、学校なのに……。


「じゃあ、先生は着替えてきてくださいね。慣れないことで大変だったでしょうから、お昼休みはゆっくり休んでもらってもいいですから。」
「……はい、ありがとうございます。」
配膳の片付けが終わったあと、お役御免を言い渡されてる。
本当に疲れた。
あんな恥ずかしい思いをさせられて、心身ともにくたくただ。
「……でも、あれは傑作だったなぁ。怖い顔を隠すためだなんて……。」
ぼそっとつぶやく担任の先生。
「聞いていたんですか!?」
「……さーて、わたしは次の時間の準備をしなくっちゃ♪」
わたしの言葉に返事をよこすこともなく、教室の中へと消えていった先生。
「あぁ……聞かれてたのかぁ……。」
往来のある廊下であることを忘れて、思わず頭を抱える。
今日だけでどれだけの黒歴史ができてしまったのだろう。
教育実習は大変だ。

「やばい、濡れてるよ……。」
再び更衣室。
嫌な予感がしていたけれど、当たってしまった。
さっき、興奮しすぎてしまったせいか、股のあたりがびしょびしょになって、パンツスーツの表面にまで染みだしてしまっている。
やっぱり感じていたんだ……雌の部分で、興奮して気持ちよくなってたんだ……。
「教育実習の場で、わたしはなにをやっているのか……。」
背徳感と自己嫌悪に、思わず頭を垂れる。
「まぁいいか。今日の残りは体育だけだし。」
そうつぶやいて、ジャージに着替える。

「ただいまぁ~……。」
いつものように、鍵をあけて家に入る。
普段は大学の近くで下宿しているから、教育実習中に暮らすのは高校まで住んでいた実家。
「……そっか。父さんと母さん、今日は帰ってこないんだっけか。」
なにやら、結婚記念日とかで、仕事が終わったらそのまま出かけるのだそうで、いい年してお熱い限り。
兄ふたりは、もう家を出てはたらいているし、家にはわたし以外誰もいない。
「あーっ!!!」
誰も家にいないことをいいことに、自室のベッドにダイブする。
ベッドがドスンと音をたてて沈む。
「……しんど。」
明日も教育実習は続く。
このまま寝てもいいように、明日の準備だけはしておこう。
そう思って、まずは明日の持ち物を確認しなければいけない。
「あと、これも必要だなぁっと……で、給食着……明日も使うのかなぁ。」
思わず持って帰ってきてしまった給食着。
小学生の頃は、当番の間、丸々置き去りにしている子も多かったけど、大人となった今じゃ、洗わずにおいのついたものを使い続けるのには抵抗がある。
「……洗うか。明日までには乾いているだろうし……。」
取り出す給食着と給食帽。
それにまみれて、あの凶悪なマスクがぽろっと落ちる。
「あっ……さっきのマスク……。」
どうしてそれを手にとってしまったのかわからない。
当てガーゼがたくさん詰められたそのマスクは、まだ若干の湿り気を帯びていて、顔を近づけると、ほのかに自分のつけていたファンデーションの香りがした。
「すん、すん……なんか、落ち着く香り……。」
マスクのにおいを嗅ぎながら、恍惚な気分になる。
そのままマスクの紐を耳にかけると、昼の息苦しさが戻ってくる。
「ふぅんっ!!」
思わず声をあげてしまう。
一瞬、冷静に戻ってあたりを見回すも、そういえば今日は家に誰も居ないことを思い出す。
「んっ……きもち……気持ちいい……やだ……また……濡れてきちゃった……。」
ズボンを脱ぎ捨て、そのまま愛液でびしょ濡れの秘部に手を突っ込むと、欲望の赴くままに激しくかき回す。
「んんんっ!!やだこれ……凄いぃ……。」
ぐっちょぐっちょといやらしい音をたてて激しくかき回される秘部。
それに合わせて、体が痙攣して波打つ。
「んふぅ……足りない……足りない……。」
既に彼女に冷静さは残っていない。
性の赴くがままに暴力的な波に体をぶつける。
彼女は、着ていたスーツもブラウスも乱暴に脱ぎ捨てると、ブラジャーすらも剥ぎとってそのまま投げ捨てる。
「はぁ……はぁ……給食着……恥ずかしい白装束……。」
まるで熱にほだされたかのように、うわごとのようにつぶやく。
「っっっっっっ!!!いいっ!この締め付けぇっ!!」
彼女は、給食着を羽織ると、狂ったかのように頭を振って叫ぶ。
極度の興奮状態にある彼女にとって、触れるものすべてが絶頂へのスイッチに等しい。
ガクガクと体を震わせ、おぼつかない足取りで、次の獲物を狙う。
「きゅうしょくぼう……きゅうしょくぼう……。」
凶悪なマスクでくぐもって聞こえづらいその声。
その息苦しさすら、彼女の興奮を高めている。
「ああああっ!!!凄いっ!!今のわたし……真っ白……真っ白だよぉっ!!!」
帽子を力任せにかぶると、己を辱めるかのように、言葉を叫ぶ。
彼女は、姿見をベッドの前に引っ張ってくると、自分の姿が見える位置に置く。
「ふふふっ……裸給食着……白装束なのに、一枚脱いだら裸……ふふふっ……。」
狂ったような笑みを浮かべる彼女。
「今日だって……こんな格好して……小学生の前で興奮して愛液たらたらこぼしてたの。教育実習なのに、わたし、悪い子。学校でエッチな事考えて……うふふ、うふふふ。」
一度とめたボタンをプチプチと外して、胸に手を入れ、ゆっくりと揉みしだきはじめる……。
「んっ!給食着と……給食帽と……給食着に締め付けられて……気持ちよくなっちゃってる……大人なのに、子供みたいな格好させられて、興奮しちゃってるの……わたし、変態だ……ふふっ、うふっ。」
もう一方の手で、さっきと同じように、びしょびしょに濡れたパンツの上から手を入れ、秘部をゆっくりとかきまわしはじめる。
さっきとは違い、まるで焦らすかのように、ゆっくり、撫でるように。
「んんっ!!……鏡にうつったわたし……こんな姿見られてたの……おっきな恥ずかしいマスク、小学生に指摘されて……動揺してたけど、裏ではひとりで気持ちよくなっちゃってた……わたし、子どもたちの規範にならなきゃだめなのに……エッチなことで頭いっぱい……うふっ。」
ときどき、乳首をいじりながら……ときどき、陰核をいじりながら……興奮で隆起した、それぞれの突起をリンクさせるかのように、ゆっくりと、いじらしく……。
「……んっ……そんなこと考えてたら、また……気持ちよくなってきちゃった……今のわたしの姿、凄くエッチ……給食着の隙間からびしょびしょのパンツ丸見え……くちゅくちゅやってる手も見えちゃってる……ボタンをあけて……おっぱい揉んでるのも見えちゃってるぅっ!!」
鏡に写る自分の姿に興奮する彼女。
自分で自分を辱め、気持ちよくなっているさまは、さぞかし甘美なものだろう。
「んっ、んっ……いいのぉっ!学校からもらった備品で、わたし、こんなことしてる……でも、気持ちいいのぉっ!!恥ずかしい白ずくめの格好も、給食着と帽子と、マスクのゴムの締め付けも……苦しさも……全部……いいのぉっ!!こんな姿……学校じゃ見せられない……でも、見てほしい……こんな姿見られたら、わたし、全部捨てなくちゃいけなくなる。でも気持いいの。見て欲しいの!恥ずかしいわたしの姿、見てぇっ!?!?」
乳房をこねくり回しつつ、反対の手で、秘部を再び激しく愛撫する。
長い時間、焦らしていたので、先ほどよりも快感の度合いが凄い。
乳首は興奮でそそり立ち、愛液は溢れ、ベッドに大きな染みを作っている。
後処理のことなんて今の彼女には考えられない。
ただただ暴力的な快楽に、それ以上を求め、ひたすら高みを目指すだけ。
「んんんっ!!あっ、あっ、あっ!!!」
こらえていた喘ぎ声が、こらえきれずに溢れだす。
「あーっ!!あーっ!!」
まるで発情期の猫の叫び声のように、或いは獣が激しく咆哮をあげるがごとく、快楽の雄叫びを上げる。
大きく分厚いマスクに阻まれて、声はだいぶ抑えられているはずだが、酸欠になりそうなくらいの息苦しさが快楽に拍車をかける。
「いっ、いいっ!!いいいのおおおおっ!!!」
乳首が千切れそうなくらい握られる。
体は激しく波を打ち続け、そろそろ絶頂が近いのだと予感をさせる。
「あっ、あっ、あああああああああっ!!!いくっ、いくいくいくっ!!いくうううううううっ!!!」
バタンバタンとベッド上で激しく波打ったのちに、解き放たれる性のリビドー。
ベッドには更に大きな水たまり。
その上で、凄い姿勢でガクガク震えている彼女の姿は、白目をむいていて、とても目の当てられる状態ではない。
「あぁ……っ……気持ちいい……変態プレイ……凄く……いいのぉっ……。」

そのまま彼女は眠りについてしまったようだが、きっと、目を覚ましたらとんでもない惨状に、頭をかかえることだろう。
給食着はまだいいとしても、汚してしまったベッドマットは高くつくだろう。
ちょっと硬くても、ちゃんとシートを敷いてからにしないとね。

……end