塾で遅くなった学校帰りの○学生。冬の日は短く、あたりはすっかり夕闇につつまれている。そんなひと気のない暗い道をひとりで歩いていると、街灯の下にうずくまる女性の姿が。丈の長いコートを着ているが、膝を抱えて、震えるように荒い呼吸を繰り返している。
「……大丈夫ですか?」
 普通の様子ではない女性に、少年は声をかける。まだ年端もいかぬ少年が女性にできることは限られているだろう。しかし、せめて助けを呼ぶことくらいはできる。尋常じゃない様子の女性を見殺しにすることなどできない。
「ちょっと、気分が悪くて動けないの。」
 女性は顔をあげる。切れ長の目をした美人さんだ。少年は、思わずドキッとしてしまう。その顔は、熱にほだされるように紅潮していて、苦しそうにも、切なそうにも見える。しかし、女性の顔の半分以上は、白い大きなマスクで覆われていて、それが異様さを際立てる。そのマスクは、今主流の蛇腹でも立体型でもなく、かつての主流だったガーゼのものとも違う。折り目もなくペラペラで、まるで顔に張り付いているかのようにその輪郭を浮き立たせてきた。マスク越しに鼻と唇の形がくっきりとわかるくらいに。続きを読む